コラム

小ぶりなボディのスポーティなオープンカー、いわゆる「ロードスター」というジャンルのクルマは、一時絶滅の危機に瀕していたといわれます。
「こういうクルマは売れないだろう」と思われていたのですね、きっと。

ロードスターの復権

しかし1989年にマツダがユーノス・ロードスターを出すとこれが大ヒット、こういうクルマを待ち望んでいた潜在的なニーズが有ったのだ、ということで各社一気に出してきました。MGのMGF、フィアットのバルケッタ、メルセデス・ベンツのSLK、ポルシェ・ボクスター、そしてBMWのZ3…。

コンパクトでシンプルなオープンスポーツカーって、やっぱりクルマ好きにとっては絶対に気になるカテゴリーですよね。これが嫌いな人ってあんまり居ないでしょ、っていうような。実際の「速さ」よりも「速く走ってる気分」って、やっぱり大事だと思うんですよね。もちろんブガッティ・ベイロンみたいな実際にとてつもなく速いクルマも素晴らしいでしょうし、最高速度400km/hというような有無を言わせない数字の性能にも憧れて当然なんですが。でも日常的な速度プラスアルファ、ちょっと頑張ってみました、っていう範囲で「速さ」を感じられる、楽しめる性能っていうのはやっぱり嬉しいもんなんですよね。

TOP GEARを思い出す?

かのTOP GEARでも「バルケッタとZ3、MX-5(ユーノス・ロードスター)の三台で政情不安定な地域を横切ってエルサレムへ行く」なんていう企画がありましたが、その車種選択のセンスと道中のめちゃくちゃぶりがとても秀逸でした。

しかしここで登場してたZ3はATがいまいちスポーティじゃないなどと、どうも評価が芳しくなかったんですよね。

あれがもしZ4だったら、当然のことながらきっと評価はまったく違ってたと思います。Z3の生産が終了したあとにZ4が出たので、Z4はZ3の後継と思われがちですが、実は同じ時期に開発されていたまったく別々のクルマです。さらにいえば、上位機種です。Z3に比べてZ4は車格も少し大きいですね。

ストレートシックスを積んだ新しいロードスター

デビューした当初は全グレード直列六気筒でした。そう、BMWのストレートシックスです。前にも書きましたが、レシプロエンジンで一次振動、二次振動、さらに回転による偶力のすべてを打ち消し合う理想のレイアウトは直列六気筒なんですね。特にBMWのそれは「シルキーシックス」と呼ばれる、スムーズかつ伸びやか、そしてパワフルな伝統のお家芸ともいえるエンジンなのです。

そして今回ご紹介するのはZ4の中でも「M」の名を戴く、Z4Mロードスターです。E46タイプのM3と同じ、DOHC直列六気筒S54B32エンジンを搭載しています。このエンジン、3.2リッター自然吸気で343ps/37.2kgmの強力なパワーを発生します。さらに組み合わされるミッションは6速MT。なお、ソフトトップは電動式になっています。

小柄なオープンタイプボディにこのエンジン、そしてマニュアルトランスミッション。これはもう、こうして書いていてもその楽しさがリアルに思い起こされて、居ても立ってもいられません。って座ってるんですが。

いま、Z4Mをお薦めする理由

2003年に登場してから2008年までのZ4、ロードスターモデルはE85、クーペタイプはE86と呼ばれます。これはその後2009年のモデルチェンジで、E89に統合されます。クーペタイプの格納式ルーフになって、ロードスターとの区別がなくなったのですね。

確かに進化ではありますが、しかしソフトトップのロードスターは屋根の軽さが魅力の一つということもありますし、マイナーチェンジ前のE85、特にZ4Mはプレミアムな一台ということができるでしょう。

生産が終わって12年、そろそろ値段もこなれてきた時期で、しかしまだまだ楽しめる、そんな年式です。同時に程度のいい個体が少なくなってくる頃でもありますので、もしも「これ!」という出物に出会ったら、それはもういっとくしかない。そんなモデルではないでしょうか。

[ライター/小嶋あきら]

人生を振り返ってみると、人それぞれターニングポイントというのはあるものです。それも一つとは限りません。結婚、出産、引っ越し、仕事が変わった、配偶者が代わった、性別が変わった…。その前後で人生が変わるような転機というのはやっぱりあるもんだと思います。

メルセデスベンツのターニングポイント?

自動車の歴史で言えば、蒸気機関から内燃機関に移行した…、いや、そんな大胆にむかしの話ではなくて。たとえば最近のダウンサイジングターボの流れとか、ハイブリッド車の技術開発とか、そういうのもきっとそれぞれターニングポイントなんでしょう。

メルセデスベンツというブランドにも、もちろんいままで多くのターニングポイントがあっただろうと思います。それこそ最初のガソリンエンジン車を作った張本人、いや、パイオニアですからね。画期的な発明や革新的な進化は数限りなく経てきているに違いありません。

SLクラスがパワーアップした時代

さて、SLクラスの変遷を見ていますと、3代目R107から4代目R129の変わり目、特に1994年のV型12気筒エンジン辺りから一気にパワーアップしているのがわかります。そして1998年のSL73 AMGで、ついに禁断の500馬力の壁を越えてしまうんですね。まるで恐竜のようなV型12気筒7.3リッター自然吸気エンジン。525PS/76.5kgmという、SLクラス史上最強のNAエンジンです。いったいメルセデスに何が起こったんでしょう。

むかしこういう記事を見たことがあります。日本製の高級車がヨーロッパに侵攻して、ベンツからトヨタに乗り換えるという動きが出ているなんて伝えられた頃でした。確かあれは2002年登場のS600L辺りだったかと思いますが、「ベンツがついに500馬力のセダンを出して「高級スポーティセダンとはこういうものだ」と一気に突き放しにかかった」というような内容でした。なお、当時は国産車に280馬力規制があった頃です。
SLクラスの流れとは直接関係ないとは思いますが、全体として高出力化していく時代だったのかも知れません。

スーパーチャージャー時代の最強エンジン

5代目のR230では、SL55 AMGがまた500馬力を超えてきます。113M55型、スーパーチャージャー付5.5リッターV型8気筒SOHCエンジンです。5.5リッターの排気量から500PS/71.4kgmという、SL73 AMGの7.3リッターエンジンに近いパワーを発生しています。そしてさらにR230が前期型の最後の年、2007年に登場したSL55 AMGコンプレッサーエボリューションでは、517PS/73.4kgmにパワーアップしています。これはR230後期型のSL63 AMGと比べても遜色のないもので、トルクでは上回ってさえいます。

このSL55 AMGコンプレッサーエボリューションというモデルは、翌年には後期型に切り替わったため1年間しか作られませんでした。2007年式のみの貴重なモデルです。

R230の後期型ではスーパーチャージャーは姿を消し、過給器付きモデルはターボチャージャーに移行したようです。おそらくそちらの方が効率が良かったのでしょう。ただ、低回転から力強く空気を詰め込むスーパーチャージャーの「味」というのも、また捨てがたいものがあったんじゃないでしょうか。

魅力のあるクルマ

良いクルマというものには、様々な要素がありますよね。あくまで道具である以上、運転のしやすさだったり居住性だったり経済性だったり、そして信頼性や走行性能、それらがバランス良くまとまっているというのが大切ですよね。どんな道でも入っていけるコンパクトな車体に、できるだけたくさんの人と荷物が積めて、燃費のいい静かなエンジンが付いていて、というようなのがたぶん「良いクルマ」なんでしょう。たとえば最近の背の高い軽ワゴンみたいな、あの辺りが最適解なのかも知れません。

では「良いクルマ」が「欲しいクルマ」かというと、人によってはイエスでは無いというのが面白いところなんですよね。税金が高くて燃費もよくない5.5リッターのスーパーチャージャーエンジン、横幅1830ミリのワイドなボディ、ほぼ2トンという重さ、そしてその乗車定員はたった2名。

こうしいデータを並べて「良いクルマか?」といわれると、正直困りますよね。どちらかというと、むしろワルいクルマでしょう。でも、軽ワゴンよりもこちらに魅力を感じる人は少なくないですよね。とりあえず、ぼくはそうです。「いいひと」がなかなかモテなくて、ちょっとワルい大人が恋愛市場を席巻してしまうという人間界の状況に似ているかも知れませんね。

[ライター/小嶋あきら]

最初の911が誕生したのは1963年、東京オリンピックの前の年でした。この年、日本では初めての高速自動車国道・名神高速が開通して、高速道路の法定速度が時速100キロと定められました。

911誕生40年

考えてみればそれまで日本の道路では時速61キロ以上出せるところは無かったんですよね。なので当時の国産自動車もだいたいそれを基準に、というかその辺りの道路事情を踏まえて作られていたんでしょうね。

そんな時代に彼の地では普通に200キロで走れる911が造られていたという辺り、やっぱり自動車の文化が違うというか、未だ埋まらない何かがあるのも仕方が無いのかも知れないなあと感じます。

5代目にして初のフルモデルチェンジ、996

911は最初の901型から930型、964型、993型と進化していって、1997年にフルモデルチェンジして5代目の996型になったんですよね。30年以上続いた空冷エンジンから水冷エンジンに移行するという、とても大きな変更でした。そして2003年、911の40周年を記念してアニバーサリーエディションが登場しました。全世界で限定1963台。そう、デビューした年1963年にちなんで、ですよね、これは絶対。

アニバーサリーモデルというとたいてい専用ボディカラーとかエアロパーツとかエンブレムとかホイールとか、そういうエクステリアだったり、あるいは専用カラーのシートとかステアリングホイールとか、そんなスタイル上の特徴で差別化を図ることが多いですよね。996アニバーサリーエディションの場合、外から見た特徴はGTシルバーメタリックのボディカラーにターボ用のバンパー、専用アロイホイールといった辺りで、敢えて言えば地味です。これはポルシェ通でないと見分けがつかないかも知れません。実はこのモデル、外観だけではなくしっかり中身も特別仕様なんですね。

中身もしっかりと特別な996

まずエンジンが違います。吸気系のライトチューンなんですが、ノーマルから25PSパワーアップしてます。320PSから345PSっていうとあまりたいした違いではないように感じられるかも知れません。なんせ分母が大きいですからね。しかし25PSというと250ccクラスのスクーターよりも大きなパワーです。人間込みで300キロ近い重さのものを時速100キロ以上で走らせることができるパワーが上乗せされている、と考えるとなかなか大きな違いですよね。また、非常に基本的なことですが、馬力というのはトルクと回転数で決まります。

仮にトルクが同じだったとしたら、より上まで回せるようにすれば馬力は上がります。よく「回転で馬力を稼ぐ」なんて言いますが、実際にはこれは回さないと違いが出てこないわけで、使いにくいパワーが増えただけ、ということになりがちです。しかしこのアニバーサリーの場合、発生回転数はノーマルと同じ6800rpmで25PSのパワーアップを達成しているのです。つまりその領域でトルクが増えてるんですね。また最大トルク発生回転数も4250rpmから4800rpmにシフトしています。中回転から上に向けてトルクが落ちないということですから、これは実際に乗るとかなりフィールが違うエンジンに仕上がっているということでしょう。いわゆるファインチューニングというやつでしょうか。

エンジンだけではなく、足回りもリファインされています。LSDが入って、さらに10mmローダウンしています。全体としてかなり詰められているというか、ノーマルとはまた違ったものになっていることが想像できますね。

ドイツのものづくりの歴史を感じるというと大袈裟か

言うまでも無くポルシェはドイツ車です。たとえばドイツを代表する工業製品というとライカのカメラがあります。カメラとクルマではまったく違うアイテムですが、しかしたとえばレバーの手応え、ダイヤルの回転する感覚など、機械としての手触りが似ている部分というか、両者に通じている手触りのようなものがあると感じます。またライカはボディに刻印された製造番号から、製造年を調べることができます。ライカファンの中には自分と同い年のライカ、バースデーライカを探して愛用する人が多いです。誕生した年と限定台数を揃えてくるという、ある種ロマンティックな部分は、もしかしたら合理的なドイツらしくないと感じるかも知れませんが、しかしそういう時の流れを感じさせるような息の長い製品を作っている、という強さもまたドイツならではなんじゃないでしょうか。

996型911アニバーサリーエディション。345馬力を6速MTで愉しむとき、きっとドイツのエンジニアリングと、911の40年の熟成を感じることでしょう。

[ライター/小嶋あきら]

「おはよう、フェルプス君」というとスパイ大作戦ですが、あのテレビドラマの原題は「ミッション・インポッシブル」でした。って、古い話です。1966年に始まったそうで、ちょうどぼくと同い年……。

スポーツカーにATなんて。昔はそうでしたよね

これを下敷きにした映画「ミッション・インポッシブル」が公開されたのが1996年。当時世間には、その五年前にできたオートマチック限定免許の若者が増えていたのですが、彼らを「ミッション・インポッシブル」と呼んでからかったのもいまでは懐かしく美しい(のかな?)思い出ですね。

たぶん1980年代くらいまで、スポーツカー好きの人たちは当然マニュアル・トランスミッションのクルマを選んでいました。
「オートマチックのスポーツカー? そんなの邪道、ダサダサっしょ」
っていうのがごく一般的な反応だったと思います。

実際、マニュアルのシフト操作は「クルマを操っている」という実感がありました。クラッチを繋ぐ一瞬、足先に感じる「何か回転しているものを押しつけているな」という感触だったり、ギヤをシフトするたびに表情を変えるエンジンの面白さだったり、マニュアル・トランスミッションならではの趣みたいなのが感じられました。皆さんそうじゃないですか?

さらにそれをスムーズに運転するには「ちょっとした熟練を要する」というところがまた、楽しかったように思うんですよね。
「オートマチックなんてあーた、誰が乗ってもスムーズに走っておもしろくもなんともないでしょ」っていうクルマ好きだけではなくて、ごく普通のおばちゃんでも「なんや左足が暇で落ち着かへんわぁ」なんて言ってましたし。

ちょっとざわつくティプトロニックの登場

そんな中、いま思うとちょっと風向きが変わってきたのが、ポルシェ911(type964)のティプトロニックが登場した辺りだったように思います。

「ティプトロニック? なにそれなんか凄そう。ナビファイブみたいなもん?」

「こらっ、一緒にしたらバチ当たるで!」

なんて、周囲がちょっとざわついてたんですよね。実はティプトロニックはわりと普通のトルコン式ATに電気制御がついただけのもので、ナビファイブの方が中身としては攻めた奴だったんですが。

とにかく「ポルシェが採用したくらいだから、オートマチックもなかなかいいのかも知れない」なんて空気になったのは感じました。

そんなこんな言ってるうちに技術はどんどん進んで、いまやポルシェのPDK(デュアルクラッチ)なんてもう思いっきり賢くなってしまいました。もはや人間がヒール&トゥだなんだ言ってても太刀打ちできないというか、とにかく「速く走る」ことにかけてはマニュアル・トランスミッションでは歯が立たないでしょう。だいたい世界で一番運転が上手なF1レーサーの人たちでもいまはツーペダルのオートマチックを使ってるわけですから、こと「クラッチ」とか「変速」といった作業は圧倒的に賢く上手になってるんですよね。

とてつもなく贅沢な二者択一

さて、「こんな時代にポルシェに乗る」ということを考えたときに、選択するのはマニュアル・トランスミッションか、それともオートマチック・トランスミッションなのか、はたして正解はどちらなのかということをふと考えてしまうわけです。

ここに二台の魅力的な911があります。どちらも2013年式type991のカレラSなのですが、一台は7速マニュアル・トランスミッション


参照:https://www.garagecurrent.com/car/67903/

そしてもう一台はPDKを搭載しています。


参照:https://www.garagecurrent.com/car/68447/

これは……。

非常に悩みます。ある種の「究極の選択」と言えるかも知れません。もしもあなたが実際にこれでレースをされるのでしたら、たぶん正解はPDKを選ぶことなのでしょう。これはきちんと数字に出るわけですから、よりタイムが縮められる方を選択するのが当たり前です。

しかし、ごく普通に(ってこんな400馬力もあるクルマ、そもそも絶対に普通じゃないんですけど)楽しく走りたいとしたら。

超絶の大パワーをぐりっと繋ぐその瞬間。回転しせめぎ合うクラッチ板を感じる、それはいま世界で一番幸せな足の裏かも知れない……。

それはもう、悩みはきっと深いでしょう。いっそ自分の免許がミッションインポッシブルだったら迷わずに済むのに、なんて世迷い言を吐いてしまうかもしれません。

[ライター/小嶋あきら]

アストンマーティンは、正式には「アストンマーティン・ラゴンダ」という社名なんだそうです。高級スポーツカーを作るメーカーで、1959年にはル・マンで優勝しています。いまもWECのLM-GTEクラスに参戦し続けている、英国車メーカーとしては元気なブランドですね。

アストンマーティンとは?

昭和のスーパーカーブームの頃に出回ったカードには、アストンマーティンのV8やラゴンダも載っていたのを覚えています。が、いかんせんランボルギーニやフェラーリに比べると地味で、カードを交換したりするときにはどうしても人気薄でした。そう、こういう大人の魅力は田舎の小学生ごときにはわからなかったのです。さらにカードの裏に馬力などのデータが書いてなくて「アストンマーティンの方針により非公開」とか書かれていたのをおぼろげながらに覚えています。いや、あれはきっと当時のカード発行元が面倒くさくて調べなかったのではないかなあと、いまになって思うのですが。

また、ラジコンブームの頃に出てきた「激突!ラジコンロック」というちょっとアレな漫画には、英国人のマーク・ボランテという少年が操るアストンマーティン・ザガート(たぶんDB4GTだと思います)が登場して、シルエットフォーミュラのセリカLBターボとかと戦っていたのがなんか印象に残っています。

初代からのヴァンテージの系譜

そんなアストンマーティンから1972年にデビューしたV8は、5340ccの90°V8DOHCエンジンを搭載した高級スポーツクーペでした。出力は305hp、最高速度は270km/hと公表されています。1977年には高性能バージョンのヴァンテージも加わって、1989年まで造り続けられました。1987年に公開された007リビング・デイライツにも出ています。実に英国車という感じですね。

1993年、ヴィラージュのハイパフォーマンスモデルとして、二代目のヴァンテージがデビューします。同じ排気量のV8エンジンながらスーパーチャージャーがツインで搭載されて、エンジンは558psになりました。2トン近いボディを時速300キロまで引っ張るという、なかなかクレイジーなモデルだったようです。1999年に生産を終了しました。

そしてその後、2005年に現れたのが、今回ご紹介する三代目ヴァンテージです。

初代や二代目に比べるとコンパクトなボディで「ベイビー・アストン」とも呼ばれますが、それでも4.3リッターのV8DOHCエンジンを搭載していて車重は1.5トン超、車幅は1866mmあります。ノーマル・アスピレーションで出力は385ps、トルクは410Nmですから、二代目のようなとんでもないパワーではありませんが、まず文句なしの大パワーですね。

魅力的なエンジン、そしてマニュアルトランスミッション

搭載されているのは実はジャガー・XKのエンジンをベースに開発されたものなのですが、共通しているのは外観のみといわれるくらいに手が入れられた別物になっています。実はこれ、ドライサンプなんですよね。ウエットサンプに対してドライサンプは車体の傾きやGに関わらず安定してオイルを回すことができる、という利点を持っています。また、エンジンの底にオイルパンを持たないので、エンジンの搭載位置を下げることができます。その分だけ重心を低くできて有利です。

ただ部品点数が増えることやコストの問題、メンテナンスのこともあって市販の自動車にはあまり採用されていないものです。この辺りアストンマーティンのこだわりなんでしょうね。サスペンションは前後共にダブルウイッシュボン、FRの2WDです。

そしてこのクルマの嬉しいところは、大排気量の高級スポーツクーペなのに、ちゃんと6速MTが用意されているところです。フェラーリからも3ペダルが消えてしまういまの時代、MTが選べるというのはとても貴重なんじゃないでしょうか。

言うまでもないことですが、エンジンというものは回転数によって表情を変えますよね。例えば低回転ではどろんどろんとトルクフルな余裕の顔をしていても、カムに乗ってくると一気にワルい顔を見せてくれるとか。そんなキャラクターこそが内燃機関の楽しさというか、モーターでは味わえない悦びじゃないですか。まして大排気量のV8エンジン。マッドマックスじゃないですけど思わず崇め奉りたくなるような、きっとそんなエンジンですよ。

そしてギアを切り替えるたびに違うエンジンが味わえる、それこそがマニュアル車の愉しみだと思うんです。それは2ペダルのパドルシフトでも味わえるんでしょうけど、さらに自身でクラッチを操作するという「いま回転軸を繋いだ!」ってダイレクトな感覚が加わったところに現れるクルマ好きの桃源郷とでもいいますか、シアワセな時間ですよね。これは純粋な「速さ」とか「効率」、まして「燃費」なんていう価値観とはまったく違った次元のものではないかと思うんです。

2018年にモデルチェンジした四代目ヴァンテージは、V8ながらメルセデスAMGをベースにした4リッターのツインターボエンジンになり、さらに高性能化します。実際おそらくすばらしいのでしょう。しかしそれは果たしてそのまま魅力の向上を意味しているのかどうかはわかりません。進化した一方で失ったものもきっと、あるはずです。

その前に三代目ヴァンテージのNAエンジンを味わってみてからでも、遅くないんじゃないでしょうか。

[ライター/小嶋あきら]

あれは確か2003年の東京モーターショーだったと思います。ぼくがポルシェ・カイエンを初めて見たのは。

「全体的なフォルムというか雰囲気は何となくポルシェなんだけど、なんかでかい」というのが第一印象でした。

SUV?スポーツカー?

同じ会場に展示されていたフォルクスワーゲン・トゥアレグと基本的にプラットホームが共通、というのは事前のお勉強で知っていたのですが、やっぱりこれはポルシェやなあという形をしていて、まとってる空気みたいなのがまったく違うんですよね。ちなみにトゥアレグの印象は、とにかく「キャンペーンモデルのお姉さん(たぶんドイツの人?)がでかいね」でした。トゥアレグの向こうに立ってらっしゃるのに肩から上が見えてる、という大変な長身で、そっちばっかり見てしまってたんですね……。フォルクスワーゲンさん、ごめんなさい。

アスファルトから飛び出したポルシェ?

あの時に見たカイエンは初代前期型と呼ばれる955型でした。誰がどう見てもSUVなんですが、ポルシェは「新しい形のスポーツカー」といっていました。そしてターボモデルの450psというスペックに「うおおおっ」となったのを覚えています。今ではわりと当たり前に(?)400psとか500psとか聞くようになりましたが、当時はあまり見たことのない大馬力でした。

そしてその450という数字は、ポルシェ好きとしてはあの959を思い起こさずにはいられなかったのです。

そう、ポルシェが技術の粋を投入して作り上げた実験的な4WDスーパーカー、959です。もともとはWRCを狙って作られたもののグループBの廃止で参戦できず、しかしパリ・ダカールラリーで圧倒的な強さを見せつけて優勝した、もはや伝説的なモデルです。あれのエンジンが450psでした。ものすごい、一体どんなパワーなんだろう、なんてひとりもんもんとしていた、あの記憶が蘇ったのですね。同時に959で「ポルシェはアスファルトの上を走るもの」というイメージから「ダートを走ってもかっこいいよなぁ」に変わりました。

そんなこんなでカイエンは、ぼくの中では「なんか大きくてすごいポルシェ」ということになりました。非常にざっくりしていて申し訳ないです。
ちなみに「カイエン」という名前は、カイエン・ペッパーというめっちゃ辛い唐辛子の名前から来ているという説が有力です。ボディは大きくてもぴりりと辛い、ということでしょうか。

955型から957型へ

955型は2002年にデビューしたのですが、2006年には早くもモデルチェンジして957型になります。形式が変更されたものの内容はマイナーチェンジで、変わったのは外装が少し新しくなったことと、エンジンの排気量アップ、直噴化くらいでした。

955型カイエンのベーシックモデルに搭載されていたエンジンは、フォルクスワーゲン製VR6型エンジンを元に、ヘッド周りなどをポルシェが開発・製作して手を入れたものです。狭角のV型6気筒エンジンで、ストレート6のように滑らかな吹け上がりといわれます。排気量は3188cc、250ps/6000rpmのパワーを発生しました。

957型では排気量が3598ccになって、290ps/6200rpmにパワーアップしています。また、もともとポルシェとフォルクスワーゲンが共同で開発した車両ですから、エンジンだけではなくその他の部品もフォルクスワーゲン・トゥアレグと共通のものが多くて、部品の供給など安心なばかりでなく、比較的値段もリーズナブルなものが手に入ります。この辺り、他のポルシェよりも維持費がかからないという強みがあります。

いまスポーツカー出身のSUVが熱い…のかな

SUVというと、もともとランドローバーやジープといったクロカン四駆から進化してきた印象がありますが、近頃ではBMWやアルファ・ロメオ、ランボルギーニなども進出してきて、クーペのようなスタイルのスポーティなものが多くなっていますね。

ランボルギーニというと昔、ランボルギーニ・チーターというのがスーパーカー少年の間では異端的な人気者でした。これはショーモデルでしたが、タミヤ模型がRC化したりしたのもあってかなりメジャーになりましたね。その後これは進化して市販車LM002になりました。こうしてみるとランボルギーニは結構昔からSUVを作っていた、といえるかも知れません。って、これは余談ですが。

カイエンは、ポルシェのポリシーとアイデンティティを持ったスポーティな高級SUVです。かつて憧れた方も多いでしょう。値段がこなれてきている今、ぜひ乗っておきたい一台ですね。仲間と一緒にカイエンを買って「カイエン隊」を結成する、なんていうベタなネタもありかもしれません(ないわ)。

[ライター/小嶋あきら]

私事で恐縮ですが、子供の頃うちにあったクルマはマツダのキャロルでした。排気量360cc、大人が四人乗ると坂道で止まってしまう、というなかなかのやつでしたが、あの時代は「クルマがある」と言うだけで嬉しかったものです。その次にうちに来たのは日産サニー1000、そのまた次はトヨタカリーナ1600。排気量と共に車内は広く、ゆったりとした感じになります。

6000ccという排気量

ぼくは小学校に入って間もない頃でしたが、子供心に「1600は1000よりもいいのだな、2000はきっともっといいに違いない」なんて感じていました。そう、その当時自分が知っている世界の中で一番大きなクルマは「2000」だったのです。そしてその数字がエンジンの排気量だということを知ったのはさらに数年あとのことでした。

さて、今回ご紹介させていただくジャガーXJSのV12クーペは6000ccです。あの頃のぼくが聞いたらひっくり返りそうな排気量ですね。

ジャガーというメーカーは

ジャガーは、もともと「スワロー・サイドカー・カンパニー」というサイドカーのメーカーでした。1922年、設立された当初は名前の通りサイドカーを造っていたのですが、程なく自動車のボディを手がけるようになります。いわゆるコーチビルダーですね。1927年にはオースチン・セブンのシャーシにスワローが製作したアルミ製のボディを架装した「オースチン・セブン・スワロー」を発売します。「美しいものは売れる」というポリシーで、エクステリアの美しさを追求したのですね。今で言うと光岡自動車みたいな感じでしょうか。

その後、社名を「スワロー・コーチビルディング・カンパニー」に、次いで「SSカーズ」にと変更します。そして1935年、エンジンとシャーシも含めてオリジナルの「SSジャガー21/2」が登場します。ここが「ジャガー」という名前の自動車のルーツですね。

第二次世界大戦が終わった年。SSカーズはジャガー・カーズに社名を変更します。「SSカーズのSSってナチスの親衛隊っぽくね?」っていう意見があったからと言われています。とんだ風評被害といいますか、ふとトヨタのISISを思い出してしまいました。

1948年に発売されたXK120が、美しいスタイリングと高性能、他社の競合車種よりも安価な価格で、大ヒットします。このモデルが「高性能な高級車」という今のジャガーのイメージを作ったと言われています。さらに1950年代にはジャガー・カーズはモータースポーツに参入します。耐久レースの世界、ル・マン24時間レースなどで、その活躍は2000年代まで続きます。1988年に総合優勝したシルクカット・ジャガー、まだシケインが設けられていなかったユノディエールの直線を350キロオーバーで走り抜けていくあの姿が、今も強く印象に残っています。

英国車の魅力

英国車というと、例えばツィードの服を着て姿勢正しく粋に乗るイメージみたいなのって有りますよね。伝統とか格式とか、「バンプラはメルセデスよりも格が上」みたいなそういう世界というような。

一方でロータスみたいな小規模のレースカーやキットカーのメーカーがしのぎを削っていたとか。二輪の世界でもトライアンフやノートンが世界のレース界をリードしていた時代があったり、今もマン島TTレースが続いていたり、そういうモータースポーツに対する熱さもまた、英国車にはあるような気がします。

ハイパフォーマンスとラグジュアリー。モーリス、ローバー、オースチン、MGなんていうような英国車メーカーが消えていく中で、インド資本の傘下に入りつつも生き残っているジャガーは、いまや貴重な英国車の匂いを伝える伝統のブランドです。

XJS 6.0 V12クーペについて

XJS 6.0 V12クーペが登場したのは1991年、ジャガーがフォードの傘下に入って間もない頃です。1975年にデビューしたXJ-Sの後継車で、スタイルはかなりの部分で踏襲していますが、ボディパネルの40%が新しくなったと言われています。V型12気筒SOHCエンジンは5,344ccでしたが、1993年モデルからは5,992ccに拡大されました。300ps/5,350rpm、48.4kgm/2,850rpmのパワーを発生します。トランスミッションはGM製の電子制御4速ATです。

英国のEU離脱が騒がれていますが、欧州はやはり一つの文化圏と言っていいと思います。しかし国々それぞれのカラーというのはクルマのキャラクターにしっかりと表れますよね。フランス車、ドイツ車、イタリア車、英国車。どれもそれぞれ魅力的です。

最近は資本提携や統合が進んで、例えばランボルギーニがアウディの信頼性を得る一方で乗りやすくなってしまったとか、そういう話も聞きます。欧州車でも、国ごとのキャラクターというのは薄くなっていっているのかも知れません。そして登場した時期を考えると、XJSはジャガーが英国車のテイストを濃く残していた時代の最後のモデルと言っていいのではないかと思います。

さらに、燃費や排出ガスなどの環境性能を重視して、時代はエンジンのダウンサイジングへと向かっています。小さな排気量に過給器を組み合わせて効率を上げたエンジンは、確かに良くできていてパワフルです。

しかし、大排気量のテイストというか抗いがたい魅力というものはやっぱりあって、さらにそれがV型12気筒ともなればこれはもう魔力に近いものでしょう。この先、もうきっと出てこない、恐竜のようなエンジン。6リッターV12を愉しめる幸せな時代は、もうあまり長くないのではないでしょうか。

ジャガーXJS 6.0V12クーペ。英国車の、ジャガーの魅力を味わうのは、きっといまです。

[ライター/小嶋あきら]

メルセデスベンツについてよく言われるフレーズなんですが、「最善か無か」というのがあります。ものづくりに当たって妥協しない、その時点でできる最もよいものを造らないのだったら意味が無い、という心意気を示した言葉ですね。

自動車の本家、メルセデス・ベンツ

高級車の代名詞のようにいわれるメルセデス・ベンツ。

「ガソリンエンジンで走る自動車」の第一号は1886年に造られたベンツのパテント・モトールヴァーゲンとされていますから、つまり自動車のルーツはベンツなわけです。元祖自動車。総本家自動車。高級車の、というよりは自動車の代名詞がベンツでも良いわけで、これはもう由緒正しいとかそういう次元を超えてますよね。「ああ、トヨタはんどすか。あそこもまあ、ほんの85年ほど前にトラックから始めやはったとこやし…」みたいな、もはや自動車界の京都人と言っても過言ではない、そんな存在です。いや、なんか余計にわからない例えやったかも知れません。ごめんなさい。かんにんどす。

「最善か無か」の時代とは


そう、そんなメルセデス・ベンツですから、もちろん妥協したものづくりなんてしてはいけないのです。本家の自覚と責任ですね。そしてそういう積み重ねこそが、押しも押されもしない「高級車」としてのクオリティを支えていたわけです。ここ、ちょっと過去形です。

1990年代半ば、そんなメルセデス・ベンツにもコストダウンの波が押し寄せます。自動車の世界でも世界的な競争が激しくなってきて、コスト度外視のやり方では戦えなくなってきたのです。結果としてメルセデス・ベンツは品質を落としてしまい、それまでのファンが離れて行ってしまうことになるんですよね。

それで、この時期までのメルセデス・ベンツのことを「「最善か無か」の最後の時代」なんて呼んだりするのですね。ちなみにその後、改心した(?)メルセデス・ベンツは、再び品質を高めていって、2015年頃にはまた「最善か無か」のスローガンを復活させていますね。

奇跡のワンオーナー、500SEC

さて、今回ご紹介させていただくのは、1988年式の500SEC(C126)です。まだコストダウンの洗礼を受けていない、最高の時代のSクラスですね。

V型8気筒SOHS4,973cc、252ps、というようなスペックはいま改めてここで書いても仕方が無いので、細かく触れません。

この個体がすばらしいのは、昭和63年に登録されて以来ワンオーナーというところでしょう。中古車の情報を見ていると、良くこの「ワンオーナー」という言葉が出てきますが、読んで字の通り「新車からいままで一人のオーナーが持ち続けていた」ということですね。この車両の場合、実に32年間も共に暮らしてこられたわけです。

ワンオーナーという言葉で示される価値とは

たまに言われることですが、乗り物にはオーナーの癖がつきます。今の時代の工業製品、そんなことはあり得ない、なんていう人も居ますが、これは経験上本当です。例えば営業所などで、同じ時期に同じ車種を何台か購入して、それぞれ特定の社員が専用で乗った場合など。三年後には、ちょっと乗り比べてわかるくらい、しっかり癖がつきます。アクセルやブレーキの踏み方、ハンドルの切り方、シフトの入れ方。またそれがATであっても、レバーの扱い方。そういうことの一つ一つがクルマに癖として刻まれるのです。もしもそれが複数のオーナーの間を転々としてきた個体だとしたら、いろいろな癖がミックスされて、全体にくたびれた印象になるでしょう。

また、一人のオーナーが長く乗っていたということは、それだけそのクルマが気に入られていた、ということです。当然、気に入ったクルマは愛情が注がれます。丁寧に扱われるでしょうし、長く乗るためにはこまめにメンテナンスもされるに違いありません。長く乗り続ける人は、そもそもクルマとのつきあい方が違います。そしてそのメンテナンスの歴史、整備記録簿などがきっちりと残されていることも多く、それを見ればクルマの状態がよくわかるので、それもまた大きな安心材料になりますよね。

年式の古いワンオーナー車というのは、それだけで「大切にされてきた」という証拠みたいなものです。最近テレビのコマーシャルで言われる「三年ごとに新車に乗れる」とか「一生新車に乗ろう」とかとは、まったく逆の価値観といっていいでしょう。

それだけ愛情を注いできたオーナーと、またその愛情を受け止められるだけの品質を持ったクルマとの幸せな出会いがあってこそ、ワンオーナーという言葉が輝き出すのでしょうね。

[ライター/小嶋あきら]

ウィリス・ジープやランドローバーといった「軍用車をルーツに持った乗用車」というカテゴリーがあります。これらはもちろんヘビーデューティで、走破性に優れた四輪駆動タイプで、いわゆる「クロカン四駆」と呼ばれたあれですね。

軍用車をルーツに持ったメルセデス

ウィリス・ジープやランドローバーといった「軍用車をルーツに持った乗用車」というカテゴリーがあります。これらはもちろんヘビーデューティで、走破性に優れた四輪駆動タイプで、いわゆる「クロカン四駆」と呼ばれたあれですね。

そんな中では比較的新しく、1979年にデビューしたのがメルセデスのゲレンデヴァーゲンです。オーストリアのシュタイア・プフとの共同開発で、今も最終的な組み立てはプフで行われています。

元々が軍用車として企画されたもので、形式名はW461型。NATOで制式採用されています。そしてそれの民生用がW460型、初代メルセデス・ベンツ・Gクラスと呼ばれるモデルです。2,297cc水冷直列4気筒SOHCエンジンの230GEと、2,998cc水冷直列5気筒ディーゼルエンジンの300GDがありました。

ラダーフレーム上に架装されたボディはショートタイプとロングタイプがあり、乗車定員はそれぞれ5人、7人となっています。
トランスミッションは4MTと4AT、駆動方法はパートタイム4WDです。
足回りはリジッドで、コイルスプリングでボディを支えていました。この辺り、まさに軍用車ですね。

基本を踏襲しつつモデルチェンジ、W463

1990年、GクラスはモデルチェンジしてW463型になります。大きく変わったのは、フルタイム4WDになったこと。あと、内装や外装の変更で、より乗用車っぽくなったことくらいです。そう、基本的なところはほとんど変更無く、ぱっと見ただけでは区別が付かないかも知れません。見分ける際の一番のポイントは、ドアの下にステップが無いのがW460、有るのがW463です。

なお、間の型式でW461は軍用モデル、W462はギリシャ向けの軍用車です。

Gクラスは2018年に大きく変更されますが、それまでの間はほぼ同じ設計、同じスタイルのままで作り続けられました。なお、なぜか現行モデルも形式はW463のままです。W460からW463の時よりも明らかに大きな変更なのですが、理由はよくわかりません。1990年のあの時期、外からはわからない大きな変わり目があったのかも知れません。

時代を映して変遷するエンジン

デビュー以来、全体的には大きな変更はなく造り続けられているGクラスですが、その間エンジンだけが時代を映して変遷していきます。W460は2.3リッターの230GEと3リッターディーゼルの300GDでしたが、W463になってからはガソリンエンジンのみになり、1991年には3リッターの300GE、1993年にはついに5リッターV8の500GEにたどり着きました。

レギュラーなGクラスはこの5リッターが排気量の頂点でしたが、さらにハイパワーバージョンでは、1998年に登場したG55AMGロングでは5.5リッターV8スーパーチャージャーエンジン、そして2012年のG65AMGロングにはついに6リッターツインターボエンジンが搭載されます。このエンジンは2015年モデル以降は実に630psという大出力を誇っています。初代の3リッターディーゼルは88psでしたから、実に7倍以上のパワーアップです。ボディの基本は大きく変わっていないということですが、これはもうまったく別のクルマと言ってもいいかもしれません。

1990年代には排気量の拡大が続いていたGクラスは、その後ダウンサイジングの時代を迎え、2013年には3リッターV6DOHCディーゼルターボエンジンを搭載したG350BlueTECとG350dが加わり、さらに2015年にはG500の名称はそのままに新たに176型の4リッターV8DOHCツインターボエンジンを搭載したモデルが現れました。この流れは現行のW463型にも続いていて、現在はOM656型 DOHC 直6ターボエンジンのG350dと176型の4リッターV8DOHCツインターボエンジンのG550、177型4リッターV8DOHCツインターボエンジンのMercedes-AMG G 63という3タイプの展開になっています。

2004年式G500ロングとは

今回ご紹介するG500ロングは、1998年8月にデビューしたモデルです。2001年のマイナーチェンジで、トランスミッションが電子制御式5速ATになっています。また、車内装備としてマルチファンクションコントローラーが追加されました。排気量は4,965cc、エンジン形式113型のV型8気筒SOHCエンジンで、296ps/46.5kgmのパワーを発生します。なお、2004年当時の新車価格は1,134万円でした。

センターデフ付フルタイム4WDは、フロント、リア、センターそれぞれに電子制御式のデフロック機構が備えられ、さらに副変速機も装備されていました。これらは運転席からスイッチで操作できます。

バブル経済の頃、クロカン四駆ブームがありました。元々はスキーブームの延長だったかと思いますが、とにかく大きなクロカン四駆がステータスでした。そしてその頂点はたぶん、レンジローバーでありハマーH1であり、Gクラスであったと思われます。そう、憧れのGクラスですね。特にこのG500は、歴代Gクラス最大排気量を誇るモデルです。燃費などの環境性能とパワーを両立した最近のダウンサイジングターボエンジンは確かに優秀です。それは疑う余地もないでしょう。しかしこの時代の大排気量エンジンの味もまた、抗いがたい魅力があることには間違いありません。

この先もう出てこないかも知れない5リッターV8エンジンのG500ロング、楽しめるのは今しかないのではないでしょうか。
メルセデス・ベンツGクラスは、いわゆる快適なクルマではありません。そこに「ベンツ」の乗り心地を求めると、おそらく「やっちまったぁ」になるでしょう。これはジープやランドローバー・ディフェンダーなどと同じカテゴリーのクルマで、元々は軍用車です。しかし、そこをわかった上で選ぶあなたにとってはきっと「さすがベンツ」と思えるような瞬間がいっぱい訪れる、そういうクルマなのでしょう。

[ライター/小嶋あきら]

「過剰品質」なんていう言葉があります。「価格に見合わない高品質」という意味で使われますが、これは特に製造業などでは商売によくない影響が出るとされています。

息の長いプロダクト

「過剰品質」なんていう言葉があります。「価格に見合わない高品質」という意味で使われますが、これは特に製造業などでは商売によくない影響が出るとされています。

いいものを作ってるんだからいいじゃないか、と思われるかも知れません。でも、いいものを作ろうとコストをかければもちろん原価が上がるわけで、それで売値が変わらなければこれは単純に考えても儲からないということになります。さらにその製品の品質がよくなって耐久性が高くなると「なかなか壊れないので次が売れない」ということになります。メーカーにとって過剰品質は、自分で自分の首を絞めてしまうことになるのですね。

こういう生産の現場での過剰品質のほかに、例えば「プロダクトとしての過剰品質」というものもあるように思います。例えばカメラの世界では、ライカのレンジファインダーカメラ。M型ライカが発表された時、そのあまりの完成度にこれはもう対抗できないということで、当時の日本のカメラメーカーが一斉にレンジファインダーから撤退して一眼レフに走ったといわれます。しかしM型を作ってしまったことで、逆にライカはその後一眼レフの流れになかなか乗れなかった、という見方もできます。

BMWのモーターサイクルにとってのフラットツインエンジンも、これに似た感じかも知れません。エンジンと駆動系を含めた構成があまりにも完成度が高かったので、非常に息の長いモデルになってしまったのですね。それでBMWが直列四気筒の新しいモーターサイクルに移行しようとした時に、永年のフラットツインのファンが「こんなのBMWじゃない」と受け入れなくて、仕方なく新しい設計でフラットツインを継続しなければならなかったわけです。

フォルクスワーゲンのタイプワンも、ゴルフが出た後も世界各国で作られ続けましたよね。あまりにも優れたプロダクトは、その後メーカーに自由な新型を出させてくれなくなる。そういうことは多々あると思います。

911という大ネーム

ポルシェにとっての911もまた、そうなんではないでしょうか(長い前置きでした。申し訳ないです)。

そもそも930が出たあとも「911」という名前で呼ばれている辺りから、既に911というモデルの「重さ」があったように思います。もともと911は開発当初901型でしたが、プジョーが「三桁で真ん中がゼロ」の数字の車名を全部押さえていたので911になった、とされています。だとすると930型が出れば930、964型が出れば964になって良さそうなものなのに、ずっと911を踏襲していますよね。

これはもしかしたら911という名前のブランディングというか、メーカーがそのイメージを定着させたかったのかなあと思います。911はあの顔で、フラットシックスで、RRで。結果それがとても上手くいったので、その後「次世代はこれにしよう」と出してきた水冷・V8・FRの928が受け入れられず、やはり「ポルシェは911」ということで930にそっくりな964が開発されたんじゃないでしょうか。

それでもやはりポルシェは進化しないといけないので、964では当初RRをやめてAWDのカレラ4を、ということになったんでしょうね。でも「やっぱ911はRRじゃなきゃ」っていう声があって、あとでカレラ2を出した。そしてその次の993では思い切って顔立ちをちょっと変えてみた。ついでにリヤサスペンションも変更してみた…。

この頃のポルシェはそういう緩やかな、段階を追ったモデルチェンジで911をアップデートしていこうという流れになったのかなあ、と感じるんですね。そして996。ついにエンジンが水冷になります。ここまで空冷で来られたのがすごい、ともいえるタイミングです。

996という変革、そしてGT3という特異点

初代から数えて実に5代目の911です。さらにワイドに、より現代的になった996は、実は993に比べて50kg程軽量化していて、にもかかわらずボディ剛性は大幅にアップしています。

そして今回ご紹介する996はただの996ではありません。初期型のGT3です。もともとホモロゲーションモデルとして限定で生産されたモデルで、3.6リッターの水冷・水平対向6気筒DOHCエンジンはNAながら360ps/7200rpm、37.6kg.m/5000rpmの大パワーを発生します。それに対して車重は1350kgですから、まさにロード・ゴーイング・レーサーですね。

トータルで1889台しか生産されなかった、特別な996型911・GT3。出会ってしまった時が運命の時なのかも知れませんよ。

[ライター/小嶋あきら]