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時代の変わり目に一年だけ製造された特別なSLクラス、SL55 AMGコンプレッサーエボリューション

人生を振り返ってみると、人それぞれターニングポイントというのはあるものです。それも一つとは限りません。結婚、出産、引っ越し、仕事が変わった、配偶者が代わった、性別が変わった…。その前後で人生が変わるような転機というのはやっぱりあるもんだと思います。

メルセデスベンツのターニングポイント?

自動車の歴史で言えば、蒸気機関から内燃機関に移行した…、いや、そんな大胆にむかしの話ではなくて。たとえば最近のダウンサイジングターボの流れとか、ハイブリッド車の技術開発とか、そういうのもきっとそれぞれターニングポイントなんでしょう。

メルセデスベンツというブランドにも、もちろんいままで多くのターニングポイントがあっただろうと思います。それこそ最初のガソリンエンジン車を作った張本人、いや、パイオニアですからね。画期的な発明や革新的な進化は数限りなく経てきているに違いありません。

SLクラスがパワーアップした時代

さて、SLクラスの変遷を見ていますと、3代目R107から4代目R129の変わり目、特に1994年のV型12気筒エンジン辺りから一気にパワーアップしているのがわかります。そして1998年のSL73 AMGで、ついに禁断の500馬力の壁を越えてしまうんですね。まるで恐竜のようなV型12気筒7.3リッター自然吸気エンジン。525PS/76.5kgmという、SLクラス史上最強のNAエンジンです。いったいメルセデスに何が起こったんでしょう。

むかしこういう記事を見たことがあります。日本製の高級車がヨーロッパに侵攻して、ベンツからトヨタに乗り換えるという動きが出ているなんて伝えられた頃でした。確かあれは2002年登場のS600L辺りだったかと思いますが、「ベンツがついに500馬力のセダンを出して「高級スポーティセダンとはこういうものだ」と一気に突き放しにかかった」というような内容でした。なお、当時は国産車に280馬力規制があった頃です。
SLクラスの流れとは直接関係ないとは思いますが、全体として高出力化していく時代だったのかも知れません。

スーパーチャージャー時代の最強エンジン

5代目のR230では、SL55 AMGがまた500馬力を超えてきます。113M55型、スーパーチャージャー付5.5リッターV型8気筒SOHCエンジンです。5.5リッターの排気量から500PS/71.4kgmという、SL73 AMGの7.3リッターエンジンに近いパワーを発生しています。そしてさらにR230が前期型の最後の年、2007年に登場したSL55 AMGコンプレッサーエボリューションでは、517PS/73.4kgmにパワーアップしています。これはR230後期型のSL63 AMGと比べても遜色のないもので、トルクでは上回ってさえいます。

このSL55 AMGコンプレッサーエボリューションというモデルは、翌年には後期型に切り替わったため1年間しか作られませんでした。2007年式のみの貴重なモデルです。

R230の後期型ではスーパーチャージャーは姿を消し、過給器付きモデルはターボチャージャーに移行したようです。おそらくそちらの方が効率が良かったのでしょう。ただ、低回転から力強く空気を詰め込むスーパーチャージャーの「味」というのも、また捨てがたいものがあったんじゃないでしょうか。

魅力のあるクルマ

良いクルマというものには、様々な要素がありますよね。あくまで道具である以上、運転のしやすさだったり居住性だったり経済性だったり、そして信頼性や走行性能、それらがバランス良くまとまっているというのが大切ですよね。どんな道でも入っていけるコンパクトな車体に、できるだけたくさんの人と荷物が積めて、燃費のいい静かなエンジンが付いていて、というようなのがたぶん「良いクルマ」なんでしょう。たとえば最近の背の高い軽ワゴンみたいな、あの辺りが最適解なのかも知れません。

では「良いクルマ」が「欲しいクルマ」かというと、人によってはイエスでは無いというのが面白いところなんですよね。税金が高くて燃費もよくない5.5リッターのスーパーチャージャーエンジン、横幅1830ミリのワイドなボディ、ほぼ2トンという重さ、そしてその乗車定員はたった2名。

こうしいデータを並べて「良いクルマか?」といわれると、正直困りますよね。どちらかというと、むしろワルいクルマでしょう。でも、軽ワゴンよりもこちらに魅力を感じる人は少なくないですよね。とりあえず、ぼくはそうです。「いいひと」がなかなかモテなくて、ちょっとワルい大人が恋愛市場を席巻してしまうという人間界の状況に似ているかも知れませんね。

[ライター/小嶋あきら]

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